SDGs(持続可能な開発目標)に取り組む県内の団体をたたえる「第4回新潟SDGsアワード」の受賞者が決まり、2024年2月17日の表彰式では受賞した企業や教育機関などに対し表彰状と、副賞として障害者によるアート作品が贈られた。アワードは県や新潟日報社などでつくる一般社団法人「地域創生プラットフォームSDGsにいがた」(代表理事・花角英世知事)が2021年から行っている。今回は25件の応募に対し大賞1件、優秀賞4件、奨励賞3件、食の新潟国際賞財団特別賞1件が選ばれた。
女性の働きやすさ追求 生産性、品質向上にも効果
大賞 皆川製作所(加茂市)
組立製造業の皆川製作所(加茂市)は、女性が働きやすい環境整備に果敢に取り組み、男女を問わず従業員それぞれの強みを生かす職場づくりを進めている。
同社は前身を含め100年以上の歴史があり、元々は桐タンスを製造していた。65年前から家電製品などの組み立てに業態を転換し、製品開発や輸入部品の検品・修理、組み立て人材の派遣なども行っている。
組み立ては細かい作業が多い。当初から主な働き手は近所の女性が多く、現在も従業員28人のうち7割を女性が占める。
20年ほど前にパートとして入社し、父親の跡を継いで現在は3代目社長の曽根亮子さんは「どうしたら子どもを育てながら会社をもり立てていけるか」を模索しながら、妻であり、母親であり、仕事以外の役割のある女性が働きやすい環境整備について考えてきた。
曽根さんは自身も2児を育ててきた経験をふまえ、子どもの登園や習い事、親の介護などに合わせた就業時間のスライドワークを導入。従業員の家庭と仕事の両立を支援しながら、多様な働き方が当たり前の企業風土を育んでいる。
お互いさまの精神で働く風土ができたことが好循環を生み、生産性や品質の向上につながった。2021年には出荷した製品約350万個のうち、不良品はほぼゼロまで改善された。現在もこの水準を維持しながら、1日に60品目の製品を組み立てる体制を構築した。
会社の信用度や知名度も上がり、地元の中学や高校、特別支援学校などから職場体験の依頼も舞い込むようになった。曽根さんは「子育てをしていた頃からさまざまな活動をしており、SDGsはその延長だと思う。このたびの取り組みが評価され大変光栄。今後も社員一丸となり、社会の役に立てるように頑張りたい」と話している。
食品ロス 楽しく削減
経済部門優秀賞 ウオロク(新潟市中央区)
販売期限の迫った食品などを積極的に選ぶ「てまえどり」運動の実効性を高めようと、県内で食品スーパーを展開するウオロク(新潟市中央区)は新発田市内の5店舗で2023年2月から、消費・賞味期限が近い商品に「ハピタベシール」を貼り、買い物客と一緒に食品ロスの削減に取り組む活動「ハピタベ」を推進している。
鮮魚や総菜などの商品が対象。買い物客にシールの貼られた商品を率先して購入してもらうことを促している。
「ガチャコース」では、シールを10枚集めるとカプセル玩具販売機「ガチャガチャ」を回すことができ、景品としてお菓子や日用品が当たる。ガチャガチャは約10カ月間で6万7461回の利用があり、商品数で67万4610個の購入につながった。
同社営業企画部の佐藤直樹さんは「家族で環境問題について考え、子どもたちの食育にもつながっている」と指摘する。
もう一つの「寄付コース」では、専用ポスターにシールを貼ってもらう。シール1枚が1円換算で、約10カ月間で5万2500枚集まった。昨年6月の環境月間には、1万5200枚分の換算額を、地元のフードバンクに寄付した。
お弁当やお刺し身が廃棄処分を免れることで、廃棄や値下げ費用2900万円を削減。廃棄で出る二酸化炭素11・1トン相当の削減にもつながった。
「ハピタベ」は今春から、村上、胎内の両市の店舗でも活動を開始した。佐藤さんは「地域全体の社会貢献活動として定着していく取り組みにしたい」と展望を語った。
人と人つなぐ居場所
社会部門優秀賞 カレー屋ふくふく(妙高市)
妙高市白山町3に昨年6月オープンした「カレー屋ふくふく」は、390円の格安カレーライスを提供する福祉を主眼に置いた地域食堂。人と人がつながれる居場所づくりを目指す。
店主の保坂正人さんは上越市出身の43歳。社会福祉士やケアマネジャーとして妙高市の施設で働いていたが、親による子どもの虐待死や困窮する母子家庭などの全国ニュースに日々接し、地域福祉向上の一助になりたいと市の空き家制度を利用して開業した。
カレーは魚粉を使い和風だしが利いたまろやかな味付け。食材は地元産や国産にこだわった。
低価格にしてもなお経済的に厳しい人、家族が多く出費がかさむ家庭を想定し「げんきチケット」と名付けたシステムも始めた。来店者がカレーと同価格の同チケットを購入し店内の壁に貼る。別の来店者がそのチケットを使うと無料で食べられる仕組みだ。「利用した人に余裕ができた時、別の誰かのためにチケットを購入してくれるような、優しさの地域循環が生まれたらいい」。
ほかにも不定期で「子ども食堂」を開催。福祉に関心のある人たちの集う場にもなった。定期的にげんきチケットを購入してくれたり、野菜や米を寄付してもらったりと「支援するつもりが、逆に地域のみなさんに支えられている」と保坂さん。「経営は大変だが、ふくふくがなくなる時は社会的に困っている人がいなくなった時だと考え頑張っていきたい」と笑顔で語った。
次世代の担い手育成
社会部門優秀賞 新穂中学校(佐渡市)
佐渡市立新穂中学校は、2020年度から全校を挙げて総合学習の時間「はばたきタイム」を活用し、「持続可能な社会の創り手を育む」ことを目的に活動を展開している。
1年生は「佐渡学」と題して地元の魅力や課題を学び、2年生は職場体験を通じて自分自身を生かす力を育み、3年生は地球市民としての視点を持って修学旅行に参加している。
どの学習もSDGsの17の視点から考えたり、価値づけたりすることで、学びが深まるように取り組んでいる。
毎朝、生徒たちが心に残った新聞記事を切り抜いて要約を発表し、SDGsとの関連を考察したり、普段から困っていることや地元の課題をSDGsの17の目標に当てはめて考えたりもしている。
学外とも連携し、グローバルな視点では気候変動や児童労働の問題、ローカルな視点では加茂湖の再生や新穂の観光などについて、専門家や担当者の話を聞き、理解を深めてきた。学年の枠を超えて、生徒たちが車座になってのディスカッションも行い、課題意識が近い生徒同士でさまざまなプロジェクトを実践した。
カリキュラムを担当した小黒淳一教諭は「SDGsの視点から日常を見つめ直し、生徒の興味関心に基づいた自由度の高い探求の機会は、生徒の主体性や創造性につながっている」と手応えを語る。
一連の取り組みは「新穂SDGsフェス」という新しい学校行事も生み出した。生徒たちが学んだ内容を発表したり、環境活動を実践したりする1日がかりのイベントとなっている。
工学で鳥獣被害減少
社会部門優秀賞 長岡技術科学大学 物質生物工学分野 野生動物管理工学研究室(長岡市)
近年、クマやイノシシが都市部に頻繁に出没、猿などが農作物を荒らすなど鳥獣被害が深刻化している。長岡技術科学大学の物質生物工学分野野生動物管理工学研究室(長岡市)では、山本麻希准教授を中心に17年前から鳥獣の生態や正しい鳥獣被害対策に関する啓発活動や人材育成事業を行っている。目指すは工学を活用した野生動物と人間の共存だ。
かつては中山間地域が緩衝地帯となって、野生動物が山から下りてくることを防いでいた。しかし過疎高齢化により限界集落が広がり、狩猟はおろか電気柵を設置する労働力もなくなっている。
研究室ではカワウの自動追い払い機器や、ドローンを使った個体数計測、イノシシの捕獲機器やGPS首輪の検証などの研究を行っている。
こうした技術を社会で生かすためにNPO法人「新潟ワイルドライフリサーチ」を2011年に設立。さらにソーシャルベンチャー企業「株式会社うぃるこ」を18年に起業した。地域での野生動物の生態調査や普及啓発活動など現場に即した対応により最大1億円を超えていた県内の猿被害を1400万円まで減少させた。
さらに山本准教授は「いくら鳥獣対策をしても農村がなくなってしまっては元も子もない」として、里山再生を目指す「株式会社未来里山技術機構」を2月に設立したばかり。「持続可能な森の恵みを生かしたローカルベンチャー群を長岡につくりたい」と意欲を燃やす。
鮭増殖へ発眼卵放流
食の新潟国際賞財団特別賞 海洋高校(糸魚川市)
糸魚川市の能生川には毎年、鮭が遡上し、地元の貴重な水産資源になっている。同市内にある県立海洋高校では、この鮭を原料とした魚醬「最後の一滴」を開発し、これを利用した商品開発などを生徒が行ってきた。さらに鮭の人工授精やふ化場見学などの実習を通じて、つくり育てる漁業についても学んでいる。
近年、全国的に鮭の来遊数や回帰率が減少しており、能生川でも10年前に比べ採捕尾数が3分の1の水準となっている。また、地元内水面漁協の担い手不足や高齢化などの課題もあり、持続可能な鮭増殖事業の実現を目指して「発眼卵放流」に着目した。
発眼卵放流とは、ふ化する前の目ができた段階の卵を放流する方法で、稚魚放流に比べ飼育期間を短縮でき、エサ代、人件費などのコスト削減が期待できる。
海洋高校では2021年から能生川支流の白鳥川で試験放流を開始。22年には25万粒以上を発眼卵放流し、生残率やコスト削減効果などを確認した。23年には地域住民と協働して発眼卵放流体験会を実施。水産資源保全と環境保全の重要性を発信した。
これまでの鮭資源を活用した「地域づくり」が評価され、23年に「県環境賞大賞」を受賞した。
同校3年の髙橋結奈さん、並木月さんは「今後も遡上する鮭を継続的にモニタリングして発眼卵放流の効果を検証し、他地域の増殖事業のモデルとなれるよう研究を続けたい」と語った。
障がい者が輝く職場に
社会部門奨励賞 鈴木コーヒー(新潟市中央区)
コーヒー卸の「鈴木コーヒー」(新潟市中央区)は2023年夏、社会福祉法人とよさか福祉会(同市北区)と協働で、同区葛塚に福祉型コーヒー焙煎所兼カフェ「DONBASS COFFEE ROASTERS(ドンバス・コーヒー・ロースターズ)」を開店した。身体・知的・精神の障害者らが働く場として「すべての人が輝ける、持続可能な一流のコーヒービジネス」を目指す。
焙煎機はプログラムで管理するなど各自のハンディキャップを先端技術でカバー。高い賃金を払える就労施設づくりに取り組んでいる。
地域と連携 健康経営
社会部門奨励賞 日本精機(長岡市)
車載計器製造の日本精機(長岡市)は健康経営の一環で2023年、地元企業・高校と連携し、サステナブル食材を活用したメニューを開発。社員食堂で提供した。
一正蒲鉾との連携では「ネクストシーフード」を使用した丼やパスタを、亀田製菓との連携では「大豆と玄米のベジミンチ(代替肉)」による丼やカレーを、長岡農業高校とのコラボでは生徒が育てた米、みそ、卵で定食などを提供した。
経営企画部の麻王徹雄さんは「今後も地元での交流活動を通じ、持続可能な地域社会の発展に貢献していきたい」と話している。
綿花栽培し学び深化
環境部門奨励賞 能生中学校・アオ(糸魚川市)
糸魚川市能生中学校では、市内のアパレルブランド、株式会社アオが進める「いといがわコットンプロジェクト」に賛同し、全校で綿花を栽培・収穫し、糸つむぎから機織りなどを体験、海外での児童労働や農薬の問題などを学んでいる。
同プロジェクトは市内で生産したオーガニックコットンでベビー肌着を作り、市内の新生児にプレゼントする活動。能生中ではイメージキャラクターを作り生徒が身近な取り組みになるよう工夫し、間引いた綿花を地域に配布するなど、プロジェクトへの理解と協力を求める取り組みも行っている。
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