青柳仁士氏(SDGsアントレプレナーズ代表理事)×鶴間尚(新潟日報社総合プロデュース室室長)
鶴間 ここまで発表していただいた事例について総括を進めたいと思います。
青柳 まずもって、素晴らしいフォーラムだったなと思いました。発表された取り組み内容で非常に優れたものがいくつもありました。私もこういう仕事柄、あるいは以前、国連職員としてSDGsのシンポジウムやフォーラムによく出させていただくんですけれども、世界に発信しても恥ずかしくないと思うようなものがいくつもありました。
見附市さん。まさに自治体のリーダーが最も取り組むべき仕事をされているなと。多くのSDGsの課題というのは、解決策がないものが多いんですね。その解決策のない問題をどうやって解決するのかといえば、それはリーダーになる人が解決策をつくり出していくしかない。
また、その時にリーダーとして優秀であるとか、あるいは能力があるというのも大事ですが、大切なことは正しい取り組み方をするかどうかです。
SDGsの場合はゴールやターゲットに取り組むのではなくて、それらを引き起こしている原因に取り組むことが大事です。たとえば貧困であれば貧困そのものではなくて、それがなぜ起きているのかという原因が無数にあります。その無数にある原因の中から一体どれが一番鍵になっているのかを考える。すぐにわかる原因はとっくに誰かが取り組んでいるか、取り組んでいるが解決できない難問になってしまっています。何が鍵なのかを知るためには、視点を変えて課題を見ることが大事です。先ほどの話でいいますと、歩く効果っていうのは足し算が可能であるということや7対3の法則の発見から見えてくるものがあったと思います。
課題側に新しい発見があれば、新しい解決策は必ず生まれます。解決策側から考え始めたら何も新しいものは出てきません。
それから、SDGsを企業や組織で実際に進めていこうとする方が必ずぶつかる問題として、周りが動かないことがあると思います。その時に最も有効な方法というのは、危機感を醸成することだと思います。「これをやらないと会社がつぶれますよ」「これをやらないと死にますよ」。同じように「4000歩、歩かないとうつ病になりますよ」というアプローチは効果的というか、よく考えられているなと思いました。
長岡技術科学大学さん。一番面白いなと思ったのは、SDGsっていうのは実は一番先頭に新潟があった、みたいな話ですね。大学として取り組んでいたことがSDGsだったということを冒頭におっしゃっていました。たとえばサーキュラー・エコノミーというSDGsが描く未来の姿で、具体的にそれって何なのと言った時に、「実は燕三条の包丁だった」みたいな話ですね。
SDGsで言っている事って日本が昔から取り組んできたことなんじゃないか、という素朴な疑問、その答えは YES だと思います。ただ世界の主流のサステナビリティの議論の中で日本は全く評価されていません。実態としてはすごいんです。ですからこれを世界の言語できちんと発信していくこと、それこそ博報堂さんみたいに人の心に刺さるようなデザインだとか、あるいはその語り方というものを使って世界に発信していくことが重要で、そうでないとただの独りよがりになってしまう。
世界はいま、SDGsや持続可能な社会方向に確実に向かっていますので、その方向の先には日本があるんだということを世界に認めさせる努力が必要です。今は何か全然違うものが次の時代にやってくる感じになっている。そうではなくて日本が昔から大事にしてきた理想の社会が世界のスタンダードになるんだと。もっと具体的に言えば、次の世界が目指す先には新潟があるということを堂々と世界に向けて主張することが肝心です。そのためにも、この長岡技術科学大学がやっているような、国連アカデミックインパクトでのハブ大学として発表していく、あるいはユネスコのSDGsのインスティチュートになっていくという取り組みはとても意味があります。
新潟大学さん。プロダクトアウトからマーケットインへという、民間企業にも通じるSDGs実践の基本中の基本が、この施策に落ちているなって気がしました。技術や解決策から何をやるかを考えるのではなくて、佐渡島にいる人々の生活からどんな課題が、どういう解決が必要かと考えて、商品であれ、研究開発であれ、技術であれを考えていく。こういう人々が生活の中で抱えている課題から始まる人間中心のアプローチに、SDGsの理念が反映されているように思います。
ビデオも流れましたが、自分で腹落ちしている社会課題を解決するための取り組み方をしている時の人間って、とても生き生きとするんですよね。民間企業であっても、地域の方であってもそうですが、自分たちの身の回りの課題を解決するんだ、そのためにこの仕事をしているんだという時に、おそらく人というのは一番モチベーションが高く、かつ能力を発揮するのではないかと思います。そういう人々の中に眠る潜在的な力を引き出していくことが一見不可能にも見える持続可能な社会の実現、すなわちSDGsの達成のためには不可欠です。海外のホールフーズやネスレやGEといった会社は、まさにそういう力を、企業の人事戦略に組み込んで活用していたりもします。
村上市立荒川中学校さん。実は教育というのはSDGsのリーサルウェポン(最終兵器)ですよね。SDGsが当たり前だと思う世代、SDGsについて働くことに何の疑問も思わず、かつその能力が現代を生きている我々よりも高い世代というのが、大人になり、現役になり、偉くなり、力を持った時にこそ、最終的にSDGsは一気に広まっていくでしょう。こういう世代を自身の手で育て上げている教員の方々の日々のお仕事は、未来を変える大事な一歩一歩といえます。
中学校の事例はこれまでもたくさん見てきましたが、今回のご発表はとにかく取り組みがすごかったなと思いました。18班が新潟巡検を行いSDGs35カ所に出掛けていくとか、ラジオ出演とかレポートだとか、ちょっと普通だとありえないレベルのことをやっている。しかも一つ一つのクオリティーが非常に高い。
「ESD(エデュケーション・フォー・サスティナブル・デベロップメント)=持続可能な開発のための教育」によりミレニアル世代、あるいは Z 世代、SDGsネイティブ世代などと呼ばれている若い人たちをどう育てるかというのは重要な課題と言われています。しかし、文科省やUNESCOのガイドラインなどは世界中の多種多様な教育現場において深みを持って使えるレベルとはいい難く、やり方は正解がない状態といえます。荒川中学校のような現場での先進事例やベストプラクティスみたいなものを一つ一つ重ねていく中で、最終的にこれがいい方法だって全国、全世界へ展開することになっていくんだと思います。その意味で、個人の先生の熱意でここまで突出して進めているこの事例は、本当に素晴らしいなと思いました。
一正蒲鉾さん。まさに本業でSDGsに取り組むという事例ではないかなと思いました。さっき申し上げた、ゴールそのものに取り組むということではなくて、その原因である減塩などに取り組んでいくような課題を特定している点、それを国際言語で発信しているということで、NCDsとか、あるいはWHOとの連携でやられているところが非常に優れていると思いました。
アドバイスをするとすれば、減塩というのはあくまで顧客にとっての経済価値のうち、特に技術に関する言葉ですので、SDGsの文脈では、社会に対する提供価値の言葉を使って表現してみても良いのではないかと思います。例えばスターバックス社、本社の方ですけれども、自分のことを喫茶店とは絶対に言わないですね。「サードプレイス」という風に言っていて、会社と家がファーストプレイス、セカンドプレイスなんですけど、「三つ目の落ち着ける場所、自分らしくいられる場所がスターバックスです」という言い方をするわけです。
あるいはネスレ社は自分たちを食品会社とは言わず、「自分たちは世界の健康をつくる会社である」、あるいは「餓死をする子どもたちを救う会社である」という言い方をします。ですから、減塩という言い方よりも、もう少し、社会全体、顧客や投資家、あるいは周りの人達の共感を呼ぶような発信の仕方というのがSDGsをヒントにひょっとするとあるかもしれないと思いました。
柏崎信用金庫さん。共感を呼ぶデザインの力とか、世界に発信する際の語りかけという意味で、綾子舞のパッケージとか非常におしゃれでかっこいいですよね。ああいうものは特に外国人受けしますので、ああいうものを日本のブランドとして発信していけば、共感を広げる一つの手段として良いんじゃないかと思いました。
原信ナルスオペレーションサービスさん。SDGsの社内浸透を一人の担当者の熱意だけで実現したということで、他の会社にとって勇気づけられる事例になっている気がしました。「SDGsを社内に広めたいが、周囲が巻き込めない」という話はよく聞きますが、こういうやり方で一歩一歩進めていけば、浸透していくんだなあと改めて感心しました。
同業他社やいろいろなパートナーと一緒にごみのリサイクルのコストを下げたいと仰っていましたが、これはCSV(クリエイティング・シェアード・バリュー)、共通価値創造と呼ばれる戦略の中でもその重要性が指摘されています。単純にコストと価格と品質だけで競争する持続不可能な社会を前提としたマーケットというのは、どこかで必ず変化を余儀なくされます。これはハーバード大学ビジネススクールのマイケル・ポーター教授という、戦略の神様といわれる方の主張なんですけれども、これからの時代はパートナーを巻き込みながら従来の経済価値に社会価値をどう乗せていくかが勝負になってくると。そういう意味では、まさに先進的な取り組みをされていると思いますし、 ISO 14001を取得されているのが原因だと思いますが、様々なプロセスや成果を数値化されているのは素晴らしいですね。
ナレッジライフさんの発表は、世界へ出しても通用するような内容だったと思います。フューチャー・フィットなど国際的な動きと連動している事もあって、意識が高いからだと思うのですが、日本の中小企業は、本当に飛び抜けた技術を持っているんですね。
私もついこの間、九州のあるメッキ会社と一緒に仕事をしたのですが、環境分野での技術は高く、かつ意識も高い。日本では名前をあまり聞いたことがないような中小企業でも、世界の中心にポーンと飛んでいけるぐらいの力を実は持っている可能性がある。
世界へ飛躍する鍵は、さっき申し上げた通り国際的な言語できちんと語れるかどうかです。ほんのちょっとした違いなんです。国際会議のど真ん中で話し合われていることと、ナレッジライフさんのやっていることがほとんど同じようなことだったとしても、ちょっとした言葉の違いとか、ちょっとした発信の違いで議題に上がらない。国際舞台における日本の主張は、こういうことが繰り返されています。
最後のバイオマスレジンさん。SDGsで一番重要なのはバックキャスティングだと仰っていました。バックキャスティングをするためには構想を描くことが重要なんですね。これから先、未来、将来がどうなっていくのかも大事なのですが、それ以上にどういう未来をつくりたいのかということを、経営者や地域の人たち自身が考える事が重要で、その面白そうな構想にいろんな人を巻き込んでいけるかどうか。
SDGsの中で一番重要な慣行軌道を変えないと、世界はこのまま続いていかないって言われているわけですから、続いていかないこの未来の進み方をどう変えていけるか。そういう意味で「ライスバレー構想」や「バイオマスプラスチック」ってものすごい夢のある話でして、将来の世界の姿、社会の姿を大きく変える可能性を秘めている。これを日本のブランドである米というものでやっていくっていう発想は本当に画期的だなと思いましたので、ぜひ国際的な発信をしていかれることに期待しています。
鶴間 どうもありがとうございます。最後にまとめとして県内企業に勇気の出るようなお話をいただきたいと思います。
(2020/2/18 にいがたSDGsフォーラム2020 新潟市中央区)
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