「脱炭素の最新トレンドと企業への提案」をテーマにしたSDGsにいがたの2024年度第5回セミナーが12月3日、オンラインで開催されました。リコージャパン株式会社の清水洋岐(ひろき)さんは「脱炭素のすゝめ 〜始めませんか、脱炭素経営〜」と題して世界の動向と日本国内の現状について報告。「脱炭素社会への移行により新しいマーケットが生まれており、企業にとっては新たなビジネスチャンスでもある」と語りました。新電力新潟株式会社の根岸優太さんは 「中小企業がCO2排出量見える化に取り組むメリットと新電力新潟のソリューション」と題し講演。「非上場企業もサステナビリティ開示が義務化される予定。脱炭素経営の第一歩はCO2排出量の見える化」と強調しました。
講演の要旨は次の通り。(要約は新潟日報生成AI研究所のサービスを利用しました)
「脱炭素のすゝめ 〜始めませんか、脱炭素経営〜」
清水 洋岐さん(リコージャパン株式会社パブリックサービス本部GX事業部脱炭素ソリューション企画室室⾧)
脱炭素社会実現に向けた世界の動向と、その世界の中の一員である日本の方向性
2015年は脱炭素社会に向けた大きな転換点でした。国連でSDGsが採択され、COP21でパリ協定が制定され、100以上の国と地域が定量的な目標を設定し、脱炭素活動を推進することに合意しました。これ以降、低炭素から脱炭素への動きが加速し、さまざまなコンソーシアムが誕生しました。日本、EU、英国、米国、中国などが2050年までにカーボンニュートラルを目指すとコミットし、各国ごとに削減目標が設定されています。
カーボンニュートラルの定義は、排出するCO2の量を最小化し、森林保全や海洋植物の保護で吸収量を最大化させることです。これにより、排出量と吸収量のバランスを取ることを目指します。パリ協定からの脱退を表明したアメリカでも、全世界的なカーボンニュートラルへの動きは不可逆的なものとされています。
また、スコープ3革命として、企業は上流(サプライヤー)と下流(消費者)でのCO2排出量も管理することが求められています。例えば、Appleは製造段階での排出量の大部分がスコープ3に該当し、サプライヤーと協力して脱炭素活動を進めています。トヨタも同様に、サプライチェーン全体での脱炭素活動を進めています。
さらに、地域脱炭素化の加速が重要なトレンドです。自治体が主導し、地域特性に応じた取り組みを進め、脱炭素先行地域を作り出しています。これにより、全国的にカーボンニュートラルを目指す動きが広がっています。
最後に、脱炭素社会への移行はビジネスチャンスでもあります。気候変動による経済損失を抑えるため、新しいマーケットが生まれており、これが企業にとって大きなビジネスチャンスとなると述べられています。
エネルギーの動向について
現在、日本を含む世界中で電気代やガス代が高騰しています。特にスペインでは電気代が4倍になるなど、エネルギー価格の上昇が深刻です。この背景には、脱炭素社会への移行が関係しています。日本では火力発電への依存がまだ高く、石炭や石油からLNG(天然ガス)へのシフトが進められています。LNGを使用することでCO2の排出量が削減されるため、この変化が大きなトレンドとなっています。
しかし、LNGの需要が増加する一方で供給が追いつかず、価格が高騰しています。さらに、ウクライナ問題や円安も影響し、日本のエネルギー価格はますます上昇しています。こうした状況はしばらく続くと予想されています。
電気料金の内訳は基本料金、使用量単価、燃料調整費、再生可能エネルギー発電促進賦課金の4つから構成されます。特に燃料調整費や再生可能エネルギー発電促進賦課金は市場や国の制度により決定されるため、需要家がコントロールできない部分です。そのため、企業や個人はピーク電力量の削減や月間使用量の削減に努める必要があります。
再生可能エネルギー発電促進賦課金は、特に2012年の震災後に始まった固定価格買取制度が背景にあり、再生可能エネルギーの普及を促進しています。この制度により、太陽光発電などの再生可能エネルギーの導入が進み、日本の再生可能エネルギー発電量は国際的にも高い水準にあります。しかし、この賦課金は需要家が負担するため、経済的な負担が増加しています。
以上のように、脱炭素化とエネルギー価格の高騰という二つの大きな課題に直面している中で、企業や個人は対策を講じる必要があります。
リコーグループの脱炭素化の取り組みについて
リコーグループでは、1970年代から環境への取り組みを開始し、1996年には「環境保全」から「環境経営」へとシフトしました。これは、環境保全と利益創出を同時に追求することで、持続可能な活動を実現するという考え方に基づいています。
具体的には、複写機の小型軽量化を通じて新規資源投入量を減少させるとともに、コストダウンを実現するなどの取り組みを行ってきました。また、環境保全の評価を経営システムに組み込み、環境負荷の削減を積極的に進めています。
現在のフェーズでは、30年間の環境経営の知見とノウハウを活用して、顧客の環境経営を支援することを目指しています。具体的には、2050年までにバリューチェーン全体でネットゼロを達成することを目標に掲げ、2030年までに63%の削減を目指しています。この目標は順調に進んでおり、前倒しで達成できる見込みです。
また、リコーグループは「RE100」に加盟し、事業活動における電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指しています。この取り組みは、企業価値の向上やESG投資の促進、社員への環境意識の浸透などの効果を期待しています。
具体的な取り組みとしては、国内の販売拠点をゼロエネルギービル(ZEB)化し、使用エネルギーを極限まで削減することや、遊休地に太陽光パネルを設置して自家消費型の創エネを進めることなどがあります。また、PPA(Power Purchase Agreement)スキームを活用して、初期投資なしで再生可能エネルギーを調達する取り組みも行っています。
さらに、調達する再生可能エネルギーについては、品質や環境影響を評価し、持続可能な発電所からの調達を行っています。
リコーグループは、自社の環境経営の知見とノウハウを基に、顧客に対してエネルギー削減や創エネルギーの提案を行い、脱炭素社会の実現に向けて積極的に取り組んでいます。
リコーグループの脱炭素に向けた取り組みとして、具体的なソリューションを提供しています。自社開発商品「RICOH Smart MES」は、オフィス内の人の位置や照度などのセンシング情報をリアルタイムにクラウドに上げ、クラウド側で自動的に照明や空調の調整を行うものです。これにより、快適性を保ちながら省エネを実現しています。
また、空調に特化した省エネ制御システム(EMS)や、受電設備のキュービクルの効率改善による省エネルギーなども行っています。これにより、約半分の省エネルギー効率を達成しています。
太陽光発電に関しては、現地調査から施工管理、保守メンテナンスまでをワンストップで提供しています。さらに、リコーグループは再生可能エネルギー(再エネ)を選択するオプションも提供しており、環境価値の高い電力を供給することで企業価値の向上を図っています。
蓄電池も提供しており、経済合理性がまだ十分でないものの、BCP(事業継続計画)の側面からも活用されています。
脱炭素経営のステップとしては、まず脱炭素経営の目的を明確にし、排出量の可視化と削減ポテンシャルの抽出を行い、ロードマップを作成します。具体的な施策として、LED化や太陽光パネルの設置、再エネ電力の調達などを実施し、その結果をステークホルダーに共有することで企業価値を上げることが一般的です。
リコーグループは、全国18か所の「ゼロエネルギービル(ZEB)」の見学ツアーを提供するなど、具体的な取り組みを通じて他社の脱炭素経営を支援しています。また、排出量の見える化ツールや省エネポテンシャルのレポート提供など、さまざまなソリューションを提供しています。
これらの取り組みを通じて、エネルギー価格の高騰を回避し、新たなビジネスチャンスや企業価値の向上を目指しています。
「中小企業がCO2排出量見える化に取り組むメリットと新電力新潟のソリューション」
根岸 優太さん(新電力新潟 エネルギー事業部 Carbon Vision 事業責任者 脱炭素アドバイザーアドバンスト)
新電力新潟で法人向けの電力事業と見える化事業を担当しています。同社は、NSGグループの小売電気事業者で、2019年にホールディングスに入社し、2023年に新電力新潟株式会社に移りました。現在、中小企業向けの見える化サービス「カーボンビジョン」の事業開発責任者として活動しています。
まず脱炭素経営が求められる背景についてお話しします。地球温暖化は深刻な問題であり、2000年から2100年にかけて最大5.7度の温度上昇が予測されています。この影響は自然環境や経済に大きな損失をもたらし、人間社会にも多大な影響を及ぼしています。国際機関や各国の動きにより気候変動に関する開示義務が強化されており、日本でも2027年以降から非上場企業に対しても開示が義務付けられる予定です。
次に、見える化の重要性について説明します。見える化とは、事業活動に関連する全てのCO2排出量を算定することです。これには、スコープ1(自社設備での直接排出)、スコープ2(他社から供給されたエネルギー使用による間接排出)、スコープ3(その他の間接排出)の3つがあります。見える化を行うことで、排出量の現状を把握し、報告、目標設定、削減の各ステップを進めることができます。
最後に、新電力新潟のソリューション「カーボンビジョン」を紹介します。このサービスは、中小企業向けのCO2排出量見える化と削減のクラウドサービスです。低コストで簡単に操作でき、見える化から削減までをワンストップで提供します。また、コンサルティングサービスを通じて、脱炭素経営の実現まで伴走します。このカーボンビジョンはリコージャパン様の提供するソリューションと合わせて利用することが可能です。
まとめ
SDGsにいがた事務局・山本直弘 国連環境計画が10月に発表した報告では、温暖化により気温が産業革命前より3.1度上昇してしまう可能性があると指摘している。新潟県も今、脱炭素条例制定の動きがあり、事業所や家庭の削減努力を求める内容になってくるようだ。これらを踏まえて締めくくりのコメントを。
リコージャパン・清水さん 新潟県が「脱炭素条例」を作って県内の企業と個人に対して努力を求めていくというお話があるようですが、まず何よりもキーワードは「自分事化すること」だと思っています。
「3. 1度上昇」するとすれば自分たちもしくは自分たちの子孫に対してどんなインパクトがあるのかということをみんなで共有するということ。そして自治体が定める条例に沿ってしっかり自分が行動すればこの難題を乗り越えられるという成功体験を1個でもつくってこれを横展開していけば前向きに脱炭素の活動というのは進んでいくのではないかと思います。
新電力新潟・根岸さん 「3. 1℃上昇の可能性」についてはきわめて深刻な問題であると捉えています。というのもIPCC(気候変動に関する政府間パネル)は気温の上昇で多くの生命の種が絶滅するリスクがあると報告しているからです。それが何を意味するかと言えば気候変動を原因とする食料生産問題になり、ゆくゆくは食料を巡る戦争に発展する可能性があるからです。
これは決して考えすぎなことではなく、非常に差し迫った現実の危機であると私は捉えています。清水さんも話したようにこうした問題を「自分事」として捉え、私たち1人1人がまずできることから取り組むことが大事であると考えています。
(SDGsにいがた会員は2025年1月末までアーカイブ映像をご覧になれます。鑑賞方法はメールにてお送りしておりますが、不明の方は事務局までメールでお問い合わせください)