既に取り組んでいることがSDGsの入り口
事例紹介では、自治体、大学、中学校、企業から九つの発表がありました。
国の「SDGs未来都市」に新潟県内で唯一選ばれている見附市の久住時男市長は、高齢になっても地域で元気に暮らせる「スマートウエルネス」や歩いて暮らせるまちづくり「ウオーカブルシティ」など市独自の「健幸施策」を紹介しました。
久住市長は「行動変容、意識変化ということをSDGsは求めているわけですが、そのためには数値的な納得性が必要です」として、専門家の研究に基づき1日の歩数と予防・改善できる可能性のある病気を関連付けた一覧を披露しました。
例えば1日2000歩で寝たきりの予防、4000歩でうつ病予防、5000歩で認知症・心疾患・脳卒中予防、7000歩でがん・動脈硬化予防などの効果をうたい「こういう数値を実際に示すことによって、それならあと1000歩歩こう」という意識を引き出していると説明しました。
長岡技術科学大学の南口誠教授兼SDGs推進室長は、同大がSDGsの9番目のゴール(産業と技術革新の基盤をつくろう)で国連から世界ハブ大学に任命されていると披露。「ユネスコからはSDGsに関係する機関として認定され、本校の必修授業を受けると、もれなくSDGsについて学べるようになっています」と、教育面の充実ぶりをPRしました。
また、企業との共同研究も活発に行い、電子顕微鏡など高価な分析装置を、新潟県の企業が使えるように便宜を図り、「地域のイノベーションを支援している」そうです。
新潟大学地域創生推進機構の高島徹准教授は、佐渡島の里山創生のプロジェクトについて説明しました。「棚田の景観や農業などをどのように内発的に持続的に維持発展させていくのか」という課題に対し、島民を中心にしたコアメンバーを結成し、「シーズプッシュではなく地域ニーズプル型」というこれまでとは違ったアプローチで地域の未来ビジョンづくりに取り組みました。同大は、この佐渡モデルを県内各地でも応用していくことを目指しています。「地域の大学が地域の未来のまちづくりや人づくりをリードしていくこと、これは当然、地域の大学の役割です」と強調しました。
村上市立荒川中学校の増田有貴教諭は、「教育×SDGs」の取り組みを報告しました。担当する1年生を中心に総合的な学習の時間で生徒一人一人が理解を深めた後、新潟市内のSDGsに取り組む企業などを訪ねる「新潟巡検」を行いました。1班4~5人、全部で18班がエネルギーやテクノロジー、芸術などテーマ別に全部で35カ所を回り、担当者から説明を聞きました。ラジオ出演をした班もありました。
中学生には新鮮で目の前が開けるような体験だったようで、増田さんは「『委員会で何かできないかな』『家族に呼びかけた』など、行動に移した生徒もいて、学びを自分事にし、アクションを移すことができたことが一番の成果」と振り返りました。
企業からは5社がそれぞれの取り組みを紹介しました。
かまぼこなど練り製品の食品メーカー、一正蒲鉾株式会社の逢坂正樹さんは、SDGsのターゲットにある生活習慣病患者の減少に関連して、減塩食品への取り組みについて報告。「当社の屋台骨商品のほとんどを減塩に置き換えました。我が社は『ザ・減塩』という状況になっています」と語りました。
また講演や減塩食品展示など自治体との連携も積極的に行っています。「(今後も)SDGsという世界的な方針と日本の健康政策を受けて、学術と自治体と連携しながら、社会貢献に繋がる活動を続け、レベルアップをしていきます」と強調しました。
柏崎信用金庫の山田秀貴さんは、「柏崎地域ブランド支援事業」について紹介。同金庫と柏崎市、新潟三越伊勢丹、新潟博報堂の4者が連携して商品開発に取り組み、地元の伝統芸能「綾子舞」をモチーフにしたお菓子をリブランディングし、高級感のあるパッケージを考案しました。「この事業を通して、柏崎の魅力の発信や、地域企業・個人を支援して地域ブランドを開発し、将来的にはブランド拠点を結びつけて、流入人口や資金流入の増加や、雇用の創出まで図る」計画を立てているといいます。
新潟県内を中心にスーパーマーケットを展開する原信ナルスオペレーションサービス株式会社の永谷恵理さんは、社を挙げてSDGsに取り組むまでにぶつかった壁について紹介。「3年前はまだSDGsという言葉自体が全く知られてなく、あまり歓迎されていないムードでした。このままだと、自社は立ち遅れてしまうのでは」と悩んでいたところ、「既に取り組みを進めていることをSDGsにひも付ける」という定義を知り、ISO 14001認証取得の実績を活かして食品廃棄物の削減やリサイクルに弾みがついたといいます。
住宅建築・リフォームの株式会社ナレッジライフ・中村勝治社長は「環境と共生」をテーマにしている同社の家づくりを紹介。住む人に優しい、地域、まちなみにも優しい、地球環境にも優しい家というテーマを実現するため、「ナチュラルステップ」という世界的な環境団体NGOにノウハウを学び、社を挙げてSDGsに取り組んでいるそうです。中村さんは「SDGsはまさに経営戦略のひとつだと考えています。(住宅建設は)非常に環境破壊が多い。造る、住む、解体するというサイクルが非常に短い。これを伸ばさないといけないし、いい環境をつくっていかないといけない」と力を込めました。
株式会社バイオマスレジン南魚沼の中谷内美昭さんは、自社で開発したお米を使ったバイオマスプラスチックの意義や将来性を説明。プラスチックごみが深刻な海洋汚染を引き起こしている現状があり、脱プラスチックの流れが加速していると指摘。同社のバイオマスプラスチックは食用に適さない古米や破砕米などを活用しており「福島県に生産拠点をつくり、無人農業で資源米を生産、米作りからバイオマスプラスチック原料生産まで一元管理を目指します。新潟県内では県内企業とアライアンスを組み米のプラスチックをさまざまな製品に実用化する『ライスバレーにいがたプロジェクト』を進めます」と展望を語りました。