SDGsにいがたの2024年度第2回セミナーが5月24日、新潟市中央区万代の新潟日報メディアシップ「ナレッジルーム」で行われました。オンラインではなくリアル形式のセミナーは2年ぶり。会員ら14人が参加し、開発社会学舎主宰の佐藤寛さんによる基調講演や、新潟の課題を話し合うワークショップなどを通じて「新潟ならではのSDGsとは」をみんなで考えました。
佐藤寛さんはアジア経済研究所で40年に渡りアジアや世界と日本の関わりについて研究を続け、近年は「SDGsの伝道師」としても活躍。本年度1回目のセミナーではオンラインでSDGs入門編を講義し、リアル開催の今回は新潟に来訪していただきました。
先進国のライフスタイル変革も迫る
SDGsの本質について佐藤さんは「(S)すっごく(D)大胆な、指切り(G)げんまん」という語呂合わせで説明。「SDGsの国連文書の正式名称は『Transforming our world』。トランスフォームというのはサナギがチョウに形を変えるように、すっかり姿を変えることを意味しています。途上国の貧困削減だけでは足りなくて、われわれ日本人のような先進国のライフスタイルも変えなきゃいけないという、とても大胆なことを2015年9月の国連で世界中の首脳が合意したんです」と、SDGsは世界の国々の大きな約束だと説明します。
また、17項目のゴール目標のうち、日本人に大きな関係がある8番(働きがいも経済成長も)と12番(つくる責任、つかう責任)について「ディーセントワーク(decent work)が一つのポイント」だと言います。
「安全でちゃんと働けて、かつ、きちんとしたお金がもらえるような職業のことをディーセントワークと言います。SDGsが始まった頃、コンサルの方々が企業向けのセミナーで『SDGsの本質は経済成長』と話していました。しかしそのSDGsの解釈は間違っていると思います。環境問題や格差などを背景とした、これまで通りの経済成長はもうダメだということが明らかになっているんです。これまでのような資本主義、マーケットにおける経済成長ではなく、全ての人にディーセントワークが行き渡るような経済成長をしましょうというのがゴール8です」 |
サプライチェーンの問題「関係ない」では済まされない
「12番は企業だけでなくサプライチェーン全体に消費者も責任があるという意味を含んでいます。サプライチェーンというのは、商品が原材料から加工されて製品になって、売られて、そしてそれが使われて廃棄されて、また元に戻っていく全体の流れを言いますが、私がいつも中小企業の方々にお話ししているのは、自分の仕事をサステナブルにしようと思ったら、SDGsは無視できないということ。なぜかというと、例えば新潟の名産品を作っている企業であったとしても、その原材料の全てを新潟県内で賄っているところはほとんどないと思います。日本国内にとどまらず、たとえば食品加工でパームオイルを使っているならマレーシア、インドネシアまで飛んでいきます。スマホのような電子機器ならレアメタルが入っていますが、アフリカまで行かないと取れないという意味で、日本のどんな地方の企業でも、サプライチェーンは地元ではほとんど完結していません」 |
「たいていのサプライチェーンは環境規制や人権規制が緩い、コストが安い途上国に行きます。日本の企業は今までは知らんぷりで良かったんです。でも今は簡単にサプライチェーンがたどれます。あなたの作っているその商品の源流ではこんなことが起きていますよということが分かった途端、その企業はマーケットから排除されてしまう。それが世界の大きな流れになっています」 |
熱帯雨林の伐採、児童労働、劣悪な労働など、環境問題、倫理的問題がサプライチェーンに絡むことから、地方の中小企業であっても関心がないではすまないと佐藤さんは言います。生産者だけでなく、消費者もそれを知りながら購入したり消費したりすることは、間接的に問題のある供給者に荷担していることになると指摘します。
最後に佐藤さんは「新潟におけるSDGsのあり方」へヒントを提示してくれました。
「地方自治体はどこでも過疎化、少子高齢化、人手不足の課題に悩んでいます。将来の世代にわたってどうやって持続可能な取り組みができるか。一つの鍵はパートナーシップです。サプライチェーンの途上国で人権侵害の問題があるならば、途上国で頑張っているNGOと組むとか、地産地消をやろうと思うならば地方自治体と組むとか、そういう様々な組み合わせが必要で、資金は地方自治体に依存するのではなく、ESG投資に積極的な地銀と組んで投資を持ってくる方法もあります。どの担い手も得意不得意があります。お互いをどうやって補い合うのか、どうやって組み合わせるのかということがとても大事です。ポイントは一つ。『business as usual(今まで通り)』では駄目だということをきちんと認識することだと思います」 |
第2部では、新潟NPO協会代表理事の堀田伸吾さんと同事務局の稲泉あかねさんがファシリテーターを務め「新潟ならではのSDGsを考えよう!」をテーマにしたワークショップを開催。参加者は3班に分かれて話し合いました。
新潟の課題解決からSDGsの本質を体感
堀田さんはワークショップの狙いについて「SDGsの17のゴールはどれも大事なテーマ。いままで関わりのなかった人も『それって大事だよね』という形でつながって同じテーマについて考えていける。そこで新しい何かが起きるということがSDGsの醍醐味だと思っていて、今日は皆さんにそれを体感してもらいたい」と説明。
タイトルは「SDGsにいがた・アクションアイデアコンテスト」。まず自分の日々の活動の中から感じる新潟の課題についてグループで話し合い、その中から一つテーマを決めて
「2030年、新潟がどんな未来の姿になっていると最高にハッピーか?」
「最高の未来を目指すために、どんな資源(人、モノ、環境、既に行っている取り組みなど)が私たちにあるか?」 「それらの資源をかけあわせたときに、どんな取り組みができるか?」 |
を話し合いました。
三つのグループいずれも「人口流出」を課題として挙げ、その課題解決のための方策を検討。「<田園や地元愛あふれる若者が暮らす新潟>小中学生を対象に、田園や豊かな自然を使って愛着をはぐくむ体験をしてもらう」「<2030年に東京、京都、大阪、新潟と言われる四大都市にして人口問題を解決>アクセスのよさ(トキエア、北陸新幹線開業など)を生かし、名産をコラボさせてピンポイントの日帰りパッケージを創出」「<観光資源を生かした魅力ある新潟>点在している観光資源を結ぶ2次交通として自動運転特区化やドローンを活用」などのアイデアをシートに書き出し発表しました。
最後に佐藤寛さんが各発表を講評。
「一つ一つは素晴らしいアイデアだし実現可能性は高いと思う。しかしどこの県のどの町でやっても同じようなアイデアが出てくる。『ビジネス・アズ・ユージュアル』では駄目だというのがSDGs。人口流出、若者減少が課題なら、メッセージを誰に対して出すのか、新潟以外のところに住む日本の若者に出すのか、あるいは世界に向けて出すのか、あるいは新潟の若者がよそに行かないように出すのか、それによって方向性は随分違う。皆さんの話を聞いていて農業、観光、交通の三つが新潟のキーポイントになるのだと感じた。外国人の活用も考えてほしい。外国人に選ばれる新潟になるために何をしなければならないかというのは重要なポイント」 |
と、辛口ながら参加者に気付きを与えるアドバイスを送りました。
今回集まった参加者は専門学校職員やメディア、保険会社、企業経営者、自治会役員、公務員などバックグラウンドはさまざま。ワークショップの対話の中から新しいパートナーシップが生まれる期待を感じさせました。
(事務局・星)