新潟県内の小中学校で2023年9~11月に、「持続可能な開発目標(SDGs)」をテーマにした出前授業が行われました。これは新潟日報社が毎年行っている、言葉を大切にし豊かな心を育むキャンペーン「ことばの学校」の一環で、日本教育公務員弘済会新潟支部の協力を得て実施。海外で医療に当たった医師や、児童労働の実態を伝え続けるフォトジャーナリストらが、人権や環境、教育などについて子どもたちに問いかけました。実施された4校(新潟市東山の下小学校、三条市月岡小、五泉市五泉北中、糸魚川市能生中)の様子を紹介します。
自然写真家・松本紀生さん×五泉市五泉北中
一人一人の取り組みが社会を変える アラスカに見る温暖化
五泉市の五泉北中では、年の半分を米国のアラスカで過ごし、動物やオーロラの撮影を続けている自然写真家の松本紀生さん(51)が授業を行いました。1年生90人を前に、温暖化の影響で永久凍土が解けるなど危機に直面するアラスカの現状を説明し「一人一人の取り組みが社会を変える力になると信じてやっていくしかない」と説きました。
松本さんは愛媛県松山市生まれ。アラスカ大学を卒業後、アラスカの手つかずの自然を写真や動画に収めています。授業の最初にクジラや氷の大地、オーロラなど壮大な自然の映像をプロジェクターで映すと、生徒は息をのんで見入りました。
松本さんはアラスカについて日本から飛行機で7時間程度かかり、日本の約4倍の広さがあると解説。「一切人間の手が入っていない土地でキャンプをしている」と話しました。
野生動物との交流を動画でも紹介しました。松本さんがオオカミの遠ぼえのまねをするとオオカミが何度も遠ぼえを返す様子や、森の中でクマと遭遇した場面などを映しだし、「つながりあって環境が出来上がっている。僕たち人間も豊かな自然の中で生きていくことができる」と説明しました。
また自然写真家に必要なものとして「忍耐力」を挙げ、「(狙ったシーンを撮影できるまで)何十日でも諦めない気持ちが大事だ」としました。
アラスカが地球温暖化の影響を受けていることも指摘しました。気温が上がったため氷河が解けて洪水が起きたり、永久凍土が解けて地盤沈下が起き、そこで暮らしていた先住民が生活ができずに移住したりしていると語りました。
松本さんは温暖化対策について「それぞれがやれることは小さいが、世の中の動きを変える力になると信じてやっていくしかない」と力を込めました。
山村優和さん(13)は「アラスカの神秘的な自然や動物の魅力を知ることができた」と感動。長谷川蓮さん(13)は「日本にはない自然の風景がきれいだった。自然を守っていかなければいけないと思った」と話していました。
フォトジャーナリスト・谷本美加さん×三条市月岡小
1枚の写真には1万語が宿る 教育で不平等なくそう
三条市の月岡小では、千葉県出身のフォトジャーナリスト谷本美加さん(54)が、外国での児童労働について自身が撮影した写真を通し語りかけました。「1枚の写真には1万語の言葉が宿っている。深読みし、考えて、行動につなげてほしい」と話し、6年生約40人が真剣に耳を傾けました。
谷本さんは、難民や内戦、児童労働などをテーマに世界で撮影を続け、1998年には国境なき医師団フォトジャーナリスト賞を受賞しました。
最初に、たくさんのレンガを背負い山を歩くネパールの子どもの写真をモニターに投影。「この子はレンガ工場で働いていて、背負っているのは約60キロの荷物。みんなのランドセル10個以上の重さ」と説明しました。
被写体の子の両親も子どもの頃から働いていて学校へ通えず、読み書きができないため「この子の誕生日を記録できず、年齢は誰も知らない」と明かしました。
児童労働をなくす方法として、「お金を寄付するという声もあるだろうが、この子の一生を支えるのは無理」とし「学校へ行って字が書けるようになれば、レンガ工場以外で働ける。自分で生きていける方が持続可能」と力を込めました。
続いて、インドで宝石を磨く仕事をする10代男子の手の写真を提示。日本では手袋やマスクを装着して使わなければならない磨き粉を素手で扱い、一日中水でぬれるため手がふやけて元に戻らないと説明しました。
谷本さんは「宝石を買うとき、この写真を思い出してほしい」と言い、「外国の児童労働は気付かぬうちに日本人の生活につながっている」と強調。「この話を家族に伝えることから始め、未来を変えていこう」と結びました。
児童らは、「子どもは自発的に働いているのか」「一緒に働く大人はどう思っているのか」など活発に質問。新保麻衣さん(12)は「百聞は一見にしかずというが、写真は本当に1万語を語ると思った」、村上葵音さん(12)は「子どもが学校へ行くのは当たり前と考えていたが、日本が豊かな国だからなのだとわかった」と話していました。
一般社団法人「Think the Earth」理事・上田壮一さん × 糸魚川市能生中
SDGsカラフルなマークで理解浸透 デザイン課題解決へ力
糸魚川市の能生中では、持続可能な社会の担い手づくりなどに取り組む一般社団法人「Think the Earth」理事の上田壮一さん(58)が「SDGsと世界のソーシャルデザイン」と題し、全校生徒を前に講演しました。
上田さんは、世の中でデザインの定義は広がって重要性は増していると強調。単に絵やポスターを描くだけでなく、「社会の課題解決」にも必要になっていると伝えました。
今や多くの人が知っている、「貧困をなくそう」といったSDGsの17の目標、ゴールを示した色とりどりの表は、デザイナーによる仕事だと紹介。元々は硬い文章だけで示されていたが、「カラフルなマークと短い言葉で」、SDGsがぐっと理解しやすくなったと解説しました。
こうした例を挙げながら上田さんは「相手に伝わりやすいよう工夫すること」が、デザインやコミュニケーションと説明。最近聞かれるようになったソーシャルデザイン、ソーシャルコミュニケーションといった言葉について、「コミュニケーションやデザインの力で、社会や環境の課題を解決すること」だとしました。
上田さんは「未来は自分が創り出せるもの」と語りかけ、「地球にやさしい世界をつくる当事者として参加できるようになってほしい」と呼びかけました。
また、上田さんは1995年の阪神淡路大震災をきっかけに「社会のためにできる仕事をしたい」との思いで広告代理店を退職し現在に至るまでの半生を振り返り、「心が動くことが大事だ」と力説。「何で心が動くかは個性。動いたことを見つめ直してほしい。未来が入っているかもしれません」とメッセージを投げかけました。
3年の池田希愛さん(15)は、「世界的な視野で社会や環境をとらえることが重要だと思った。自分にできることを見つめ直してみたい」と語りました。
3年の石塚滉大さん(14)は「地域について考える際は地域の人と取り組むなど広がっていくことが大事だと思った」と話しました。
元在ガーナ日本大使館医務官・遠海重裕さん×新潟市東区東山の下小
日本の医療当たり前じゃない 世界見る広い視野必要
新潟市東区の東山の下小学校では、元・在ガーナ日本大使館医務官の遠海重裕(えんかい・しげひろ)さん(52)=新潟市秋葉区出身=が、アフリカの暮らしや教育、医療の現状について語りました。4年生約130人を前に「日本で当たり前のことは、世界では決してそうではないことを頭に入れてください」と話し、視野を広く持つよう呼びかけました。
遠海さんは2016年から20年まで、西アフリカのガーナに赴任しました。街の様子について「車がたくさん走っていてレストランも多く、市場にはトマトなど新鮮な野菜が売られている」と語りました。
ガーナの小学校について「平屋建てが多く、体育館もないところがほとんど」と説明しました。学年が上がるときに進級試験があり「合格しないとずっと同じ学年のままになる」と話すと、児童から「えーっ」と驚きの声が上がりました。
国内で今、ごみ処理の問題が深刻化していることも紹介。使えなくなったゲーム機など、世界中の古い電子機器がガーナに送り込まれ「ごみの山ができている」と話しました。現地の人々は、電子機器から鉄や銅を取って売るためにごみを燃やすが、有害なガスが出て病気になる人が多いとし「皆さんがごみを捨てるとき、それらがどこに行くのか、ちょっと想像してみてほしい」と呼びかけました。
ガーナには医者や看護師が少なく、病気になっても治療を十分に受けられず亡くなることも多いと説明。交通事故に遭った子どもが、適切な治療を受けられず足を切断してしまうこともあると語りました。
「日本では病気になったらきちんと治療を受けられる。本当に恵まれていることを知ってほしい」と強調しました。
授業を聞いた樺沢凜さん(10)は「ガーナは医療が整っていなくて大変だと思った。病気になったら、すぐに病院に行けることの大切さが分かった」と話しました。川越央介君(10)は「ガーナと日本では、たくさんの違いがあると分かった。他の外国についても、詳しく学びたいと思った」と力を込めました。
(新潟日報社)