事例紹介「健やかで幸せに暮らせるまちづくり『スマートウエルネスみつけ』『歩いて暮らせるまちづくり』ウオーカブルシティの実現を目指して」
新潟県見附市長 久住時男氏
見附市は昨年、「SDGs未来都市」の一つに選ばれました。31自治体の一つです。そして10自治体だけの「自治体SDGsモデル事業」にも選んでもらいました。結構難しいんです。書類審査でかなり落とされます。次のヒアリング審査では内閣府の評価検討会の学識者たちの前で私一人呼ばれて、30分間みっちりと質疑応答を受けました。そこを無事に通った上で認められました。選定証授与式が行われた首相官邸で総理と官房長官から「健康施策は認知症対策としても重要視している」とお言葉をいただきました。
見附市がなぜSDGsの未来都市に選ばれたかというと、「健幸施策」のまちづくりをずっとやってきたからです。「スマートウエルネスみつけ」といいます。私が市長になってもう18年経つのですが、市長になってから、見附市民を元気にする切り札で、お金のかからない、でも誰もがそのことで元気になれる、健やかで幸せになれるという健幸施策をやってきました。
18年前、健康施策は国でもやっていないし、行政でもやっていない。「健康になんで税金を使うんだ」という時代でしたが、そこだけはコツコツとやってきました。
見附市のまちづくりの方向性を定める最上位計画である、平成28~37年、10年間の第5次総合計画では、横軸に8つのプロジェクトを掲げています。(1)主体的な社会参加、(2)賑わいのあるまちなか、(3)地域コミュニティの確立と充実に向けて、(4)良質な住環境の形成、(5)地域包括ケアシステムの構築、(6)生きがいを持てる雇用と活躍の場の充実、(7)ふるさとの魅力を磨く人材の育成、(8)人口ビジョンの達成に向けて――というのが具体的なプロジェクトですが、これはSDGsの17のゴールと非常に似ているものが多く、見附市のまちづくりとSDGsの親和性の高さがお分かりいただけると思います。
これまでのまちづくりが、後で分析をするとSDGsと、まさに方向性が一致していると感じましたので、それだったら私どもも提案してもいいのかなということでSDGs未来都市に申請させていただきました。
見附市は新潟県のど真ん中、合併しない4万人の小さな市であります。ご存知のように今すべての自治体は人口減少、高齢化社会で、日本創成会議からはあなたの街はなくなるよという脅しをかけられたということであります。その中で生き残り、町の持続可能性ということがいま、まちづくりの大きなテーマであるということです。私は「健幸」を切り札にする発想で生き残っていこうと考えたのです。
しかし、さっき言ったように健幸というものはいいけれども、税金を使っていいのかっていう時代でした。病気を治すのならば当然必要だけど、健康な人をより健康にするのに税金を払うのかと議会でも言われました。
それで、健幸施策にエビデンスベース、すなわち皆さんを納得させる数値を示していかなければ大きな施策にならないっていうのは、私どもの大きなテーマでありました。
健幸施策をエビデンス、明らかになった事実という形でいくつかお話をします。
市では民間のスポーツジムのような健康運動教室という施設を平成14年から続けていますが、そこに参加する人、参加しない人が数年後に要支援1以上の介護認定になる人とならない人の率を比較したら、少なくとも3倍以上違う。こういうものがエビデンスで出てきた。
行動変容、意識変化ということをSDGsは求めているわけですが、そのためには数値的な納得性が必要だということです。
もう一つのエビデンスとして医療費。こちらは1人あたりの後期高齢者の医療費ですが、平成22年から26年まで減少傾向にあり、国保の医療費も全国や新潟県よりも低く推移しています。
健幸施策を産官学で勉強しようということで、スマートウエルネスシティ首長研究会を平成21年に立ち上げましたが、はじめは9市の市長の集まりであったのが、現在は、106の自治体、首長が加入しています。その会長にずっと私が就いているのですが、その産官学でやった10年間で、私どもの認識を大きく変えるような数値が示されました。
東京、大阪、愛知における主な交通手段として自家用車に頼っている人と糖尿病患者数の比較です。自家用車に頼っている人が多い地域は、比例して糖尿病患者数が多い結果となっています。それまで歩く効果は20分、30分継続しないと内臓脂肪減少に役立たないと言われていましたが、実は足し算でいいというのが医学的に発表されました。まとめて歩いても、分割して歩いても、歩く効果は同じだと。だからエレベーターに乗らない、エスカレーターに乗らない、一つ前の駅で降りる、そのことだけでも大きな影響が出るということがわかりました。都市政策、都市のあり方が健康にも影響するということです。
もう一つ大きな実験をしました。平成22年、健康アルゴリズムの研究ですが、私ども行政が健康施策をたくさん用意しました、ぜひ皆でやりましょう、これだけ医療費も下がりますと訴えても、実際に参加している人は実は3割だけだったのです。7割の人達には行政の言葉が通じない、伝わっていない。だから成果も上がらない。これを「7:3の法則」というそうです。
SDGsもそういうことです。一生懸命、このフォーラムに来られる人はこの3割の一人なんです。残りの7割の人が行動しなければ世の中が変わらないのが現実で、これを克服するのが私たちの10年間の苦労でありました。
コンパクトシティに先進的に取り組む自治体を表彰するコンパクトシティ大賞の第1回目の最高賞を見附市は受賞したのですが、「歩いて暮らせるまちづくり~ウオーカブルシティ」が評価されました。
今、日本だけでなく世界もウオーカブルシティを目指しています。ニューヨークでは街の真ん中、五番街も自家用車が入れなくなりました。そういう意味でのウオーカブルシティというのが私どものSDGsが目指す姿なのですが、まずは意識変容を促すために、1日の歩数と予防・改善できる可能性のある病気の一覧を示しました。
東京都健康長寿医療センター研究所による群馬県中之条町での研究に基づくデータですが、1日2000歩を歩くことが寝たきりの予防になるのです。4000歩でうつ病、5000歩で認知症・心疾患・脳卒中、7000歩でがん・動脈硬化、8000歩で高血圧症・糖尿病の予防・改善に効果がある、こういうものが明らかに数値になっているのです。
こういう数値を実際に示すことによって、それならあと1000歩歩かなきゃいかんという考え方も出てくるわけです。こうした数値を出しながら、行動変容、人の意識が変わるように、そして実際の自分の生活が変わるように続けました。
また、「歩いて暮らせるまちづくり~ウオーカブルシティの深化と定着」というイメージを示しました。経済、環境、社会が好循環を起こすイメージ図ですが、こういうものを整理して申請をして県内で初めて「SDGs未来都市」「自治体SDGsモデル事業」に認められたということです。去年の8月には、3カ年の取り組みを具現化した「見附市SDGs未来都市計画」を策定しました。そこでのポイントは(1)公共交通の利用促進(過度な車依存からの脱却)(2)ソーシャルキャピタルの醸成(SDGsの理解・ビジョンの共有)の2点です。
まず公共交通の利用促進ですが、見附市は歩いて暮らせるまちづくりを目指していますが、ご存知のように私たち地方都市は車社会中心の都市構造です。皆さん新潟で明日から車が乗れない、目が悪くなった、運転が不安になったらどんな生活になると思いますか。外出しづらくなれば、家でずっと過ごしてしまう、そういう人たちがこれから増えるのです。その人たちに毎日8000歩は歩いてもらいたい。そのために、自家用車の代わりに公共交通の利用促進、過度の車依存からの脱却ということを大きなポイントに掲げてまちづくりをしてきました。
二つ目が、ソーシャルキャピタル(社会関係資本)の醸成です。ソーシャルキャピタルは、そこに住む住民、その人たちがどういう価値観を持つかであります。目の前の自分の損得よりも、地域のため、将来のため、子供たちのため、そういうものに対して自分のことをちょっと抑えられるか。みんなのために行動できる、そういう価値観を持った人たちで成り立つ街が理想の街で、そういうことが成り立つ国が理想の国で、そういう人たちで成り立てば理想の地球で、そういう人たちで成り立てば社会は今後も持続できるということであります。
SDGsとは何か。私どもは消費者、生活者ですが、消費者の意識を変えてもらうということです。ある先生がSDGsの価値観をシンプルにどうやって教えたらいいかなと言われたので、これがいいんじゃないですかって教えました。
スマートウエルネスの価値観だと。皆さんスーパーに行って車をどこに停めますか。入口に一番近いところ、それは違うのです。スマートウエルネスの意識が高い人は遠いところに車を停める。
それではSDGsではどうでしょう。皆さんスーパーに行って牛乳を買います。どういう風に選びますか。賞味期限が一番長いものを選ぶでしょう。それは違う。SDGsの意識が高い人は一番手前から選ぶ。あと3日で賞味期限になってしまう、ゴミになってしまう。SDGsの価値観を持てば、私は2日で消費できるから、無駄になって捨てられるものをあえて選ぶ。そういうものを選ぶ価値観、そういう消費者になれば、作り手は作りがいがあるということです。
そういう時代を作ろうということがSDGsの一番のエッセンスであり、私どものソーシャルキャピタルです。
公共交通について補足させていただくと、公共交通はウオーカブルシティの根幹的なインフラになります。
市街地の中を山手線のように巡回して運行するコミュニティバスの利用者数は、平成17年は3万人だったのが、去年は18万人、今年は19万にいくかも知れません。運行間隔も初めは1時間に1本、今は30分に1本ですが、20分に1本になったら、20万人には達するだろうと。なぜ20分に1本になると20万人に達するのかと、内閣府の方から聞かれました。20分に1本になったら時刻表を人は見なくなる。行動変容を起こすことで、自家用車ではなくて、コミュニティバスを利用するようになるということです。
そして、市内をグルグルと回っているコミュニティバス全ての車体にSDGsのマークをラッピングし、市民の多く方の目に触れる環境を作ってSDGsを広めています。
SDGsを広める取り組みとして、子どもたちへのSDGs教育にも着手しています。
SDGsの教育がなぜ必要なのか。子供たちに教えることで、大人である保護者、市民に広がっていくからです。長岡技術科学大学は国連からSDGsハブ大学に任命された大学です。全世界に17校しかハブ大学はありません。アジアには2つしかない。一つはインド、もう一つはなんと長岡技術科学大学です。長岡技術科学大学とタッグを組んで、来年度から必修化されるプログラミング教育を通じて、SDGsが学べるカリキュラムを構築していただいているところです。
もう一つ大事なのがソーシャルキャピタルの部分であります。13年かかりましたが、私は見附市内に11カ所、1カ所に1年から1年半かけて地域のコミュニティ組織を再構築しました。地域で活躍する町内会やPTAなど全てを横串にして組織をつくりましたが、筑波大学が、この組織ができる前と後で、ソーシャルキャピタルのチェックテストをしました。「あなたは地域に助けてくれる人がいますか」「地域の活動に出ていますか」という質問です。明らかにコミュニティ組織ができてからの方が優位性がある、すなわちソーシャルキャピタルが高いという分析結果が示されました。
最後に筑波大学が人口4万人の見附市とA市(4万1000人)、B市(6万1000人)、C市(7万1000人)のソーシャルキャピタルの高い人の割合を調査しました。A市、B市、C市とも同じくスマートウエルネスシティという健幸施策をやっている自治体であります。
その結果、ソーシャルキャピタルが高い人の割合は低いC市が15. 8%、高めのB市でも34.2%、見附市は48.2%であります。コミュニティをつくって、絆をつくって、身近に頼る人がいる。こういう安心感が感じられるまちづくりが、ひょっとしたらSDGsの価値観に近いまちづくりになるのかな、そんなふうに思っております。
(2020/2/18 にいがたSDGsフォーラム2020 新潟市中央区)
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