事例紹介「SDGsハブ大学、長岡技術科学大学の紹介」
長岡技術科学大学 教授兼SDGs推進室長 南口誠氏
長岡技大は非常に小さい大学です。教員が200名ちょっと、学生も2000名ぐらいしかいません。設立は1976年と、40年以上前ですが、当時、長岡にもありますが高等専門学校(高専)出身者のための大学も作らなきゃいけないという要望があったそうです。さらに今では当たり前になっている産学連携を、当時の国立大学に働きかけても「企業から金をもらって研究するのは言語道断だ」という先生が多かったそうです。そこで、そういう大学をつくろうということになった。そんな技術者を育成する大学で、高専出身の学生が8割を占めています。
大学のモットーとして「VOS=ボス」という言葉を掲げています。「バイタリティー」、「オリジナリティ=独創性」、「サービシィズ=世のための奉仕」という言葉の頭文字を取ってるんですが、学生に端的に説明する時は、「踏んづけても死なない」「人がやらないことをやる」「きっとこれは誰かのためになっているはずだと信じてやる」と言っています。つまり世の中への奉仕が本学の研究や勉強をする上での一つの柱になっています。なので SDGsというのは、ある意味、本学が今までやってきたことを、別の形で国連が表現してくれた、という風になるかなと思っています。
そんな我々の活動を国連に評価していただいて、「国連アカデミックインパクト」という大学との連携プログラムの中に、本学も選んでいただきました。
国連のアカデミックインパクトでは、SDGsの各17ゴールに1校のハブ大学を設置しています。本学はイノベーションやインフラ整備関連であるゴール9「産業と技術革新の基礎をつくろう」で任命されました。
ユネスコからはSDGsに関係する機関として認定されています。本校の必修授業を受けると、もれなくSDGsについて学べるようになっていますし、SDGsを推進するような高度なエンジニアを育成する、「技学イノベーション専攻」という特別な専攻も作っています。この専攻はSDGsを基礎にした修士・博士一環コースで授業料はかからず、月数万円ですが給料ももらえるような専攻です。
海外から来る社会人留学生向けのプログラムとして、「SDGsプロフェッショナルコース」という博士課程も持っています。SDGsを達成しようというマインドを持った技術者を、日本国内だけでなく海外にも輩出していこうというのが、我々の大学が行っている教育面の事例だと言えます。
本学は設立の当時から留学生の受け入れを一生懸命やっていました。留学生は、その国の将来のエースを育てるための人材育成の一つの手段です。現在の留学生比率は14%ぐらいで、国立大学の中では常にトップ何番には入っています。我々の大学が他校とちょっと違うのは、中国よりも東南アジアや中南米の大学が多いことです。
本学に来る学生を増やす試みとして、特徴的なことがあります。ツイニングプログラムといいまして、ツイニングというのは英語で接ぎ木という意味です。1、2年生は現地の大学で日本語と専門の勉強をします。かなり過酷です。午前中は日本語、月曜日から金曜日まで。午後は専門の授業を現地の言葉で、という形で勉強して、3、4年生が長岡技大に来て~コンソーシアムをつくっている群馬大学などに来るケースもありますが~4年間のうちの2年間を日本の大学で過ごします。
今、ベトナム、中国、メキシコ、モンゴルなどの8校と、このプログラムを動かしています。年平均30~40人ぐらいの留学生が本学に来ています。
私も含め本学の先生が現地で集中講義を行うのですが、院生も教育補助で同行します。
これが院生にとっても、将来、日本企業に入り、例えばベトナム工場やマレーシア工場で英語も日本語も通じないローカルの人達にどうやって仕事を教えるかというトレーニングにつながるプログラムになっています。
長岡技大の産学連携教育研究を世界に広げようと、「GIGAKU Techno Park Network」というプロジェクトをつくっています。世界各地の大学とパートナーを組み、技学教育を推進するとともに、日本国内の中小企業、中堅企業のグローバル化を支援しています。平たく言えば、海外進出のコンサルティングをやっています。JETROやJICAとも協力しながらやっています。また、海外の企業が向こうの大学を通じて我々の大学に話が来るような形で共同研究を推進しています。
ネットワークには9カ国13拠点が参加しています。ヨーロッパの方ではスペインやルーマニア、中南米ではメキシコ、チリ、アジアではインド、タイ、マレーシア、ベトナムなどの国々ですね。それぞれの国にオフィスがあり、現地の方をコーディネーターにして、彼らが実際に営業活動をやったりコーディネーションをしたりしています。
こうやって海外とのネットワークをつなぎながら、各国で日本流の技術の勉強ができる環境を整えていくのと同時に、日本の中小企業の方が海外へ行きやすくする、そこからイノベーションにつなげるようにやっています。
企業との共同研究ですが、一例としてすみだ水族館(東京)の水の浄化システムは本学の先生が大成建設と共同研究で製造した設備が入っています。従来のサイズの半分なので、墨田区のような海側じゃない場所にも水族館が造れるようになりました。
このほか日産の電気自動車用急速充電器ですね。インターネットで調べると長岡技大と共同研究しましたと出ています。
個別の会社との共同研究のほかに、地域の共同研究として新潟県の企業とネットワークをつくり、マグネシウム合金を実用化するプログラムもやっています。
現在やっているプロジェクトとしては、地域の大学や研究設備を民間企業にオープンにして、地域のイノベーションを加速してくださいという文科省の補助事業,SHAREがあります。本学では電子顕微鏡類や、大変高価な分析装置を、新潟県の企業でしたら長岡技大にコンタクトを取ってもらえば使うことができます。顕微鏡のいくつかはインターネットでがつながっていまして、サンプルを送ってもらいセットしたら、皆さんが会社から遠隔操作できます。
地域企業に本学の先端設備を使ってもらい、自分たちの会社の設備だけではなかなかできないようなイノベーションを起こすように利用してもらえればと思います。
本学は海外から学生を受け入れているのと同時に、年間50人ぐらいの学生を半年程度のインターンシップとして海外に送っています。国際学会に行ったり、何かの勉強で行ったりするのを考えると、おそらく100人くらいの学生が海外に行っていると思います。
さて,実際に海外に派遣中の学生に聞いたのですが、滞在先の国ではSDGsについては「誰も周りで話していない」そうです。ある先生の話でも、フランスではもうSDGsなんて話題にものぼらないそうです。当たり前すぎるからだそうです。
今、ヨーロッパが関心を持っているのは「サーキュラーエコノミー(CE)」です。
今までは,資源を使い,物を作って、使って、捨てる、ゴミができる。日本はこれに対して3 R(リデュース、リユース、リサイクル)をうまくやりゴミを減らそうという考えですが、実際にはゴミはほとんど減っていないそうです。
これに対して「サーキュラーエコノミー」というのは、作って使ったらもう1回再利用しましょう、それによりゴミをなるべく減らしましょうという考え方です。ただ当然、うまくやらないと経済が回りません。だからこれが回るような仕組みを考える必要があります。サーキュラーエコノミーというのはこういう概念だそうです。
しかし、よく考えたら昔の包丁がそうなんですよね。燕市に行って一振り3万円する包丁を買ったら、切れ味が悪くなったからって捨てられません。研ぎ屋に行って研いでもらいますよね。それで研ぎ屋も儲かります。包丁は良い包丁なので研いでいればずっと切れ味がいいです。鉄鉱石から作った鋼で良い包丁は何年間も使えて、クオリティの高い料理ができるわけです。こういう経済活動を実用化していくのがサーキュラーエコノミーであろうと思っています。
サーキュラーエコノミーに向いた材料として、私が研究しているMAX相セラミックスという材料があります。チタンとアルミニウムと炭素の化合物なんです。セラミックスとは瀬戸物ですから、割れたら元に戻りません。もろいものです。このMAX相セラミックスは金属のように削れる上、しかもこの材料がちょっと面白いのは、ヒビが入ってしまった後に1200℃で4時間ぐらい加熱するとヒビのすき間のところに別のセラミックスができてヒビを埋めてくれます。強度が元に戻ります。
例えばこのセラミックスを使って部品を作れば、ある時間使った後、ヒビが入って使えなくなったらまた、会社に戻して熱処理をしてまた使えるようになる。これを繰り返すことによって一つの材料をなるべく最後まで上手に使っていくサーキュラーエコノミーが実現できるんじゃないか。こういった仕掛けをしていくことでサーキュラーエコノミーを実現していって、SDGsを実現していくという流れもありなのかなと考えています。
(2020/2/18 にいがたSDGsフォーラム2020 新潟市中央区)
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